
【ワシントン=中村亮、ドバイ=岐部秀光】サウジアラビアとロシアなど産油国が暫定合意した原油の協調減産への参加を米国が見送った。自由な競争を掲げて生産調整に難色を示したためだが、もともと産油国の協調減産復帰を求めた米国が参加に応じないというねじれた状態に。新型コロナウイルスによる需要急減に対応した大幅減産の具体的な道筋を期待した市場は国際協調の乱れに失望しそうだ。
「米国などが日量500万バレルを減産する」。ロシアのノワク・エネルギー相は10日、国営メディアのインタビューでこう主張した。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの主要産油国が参加する「OPECプラス」の9日の暫定合意では日量1000万バレルの減産を明記。ロシアやサウジは10日の主要20カ国・地域(G20)エネルギー相会議で、暫定合意の輪を広げ、米国などからも減産協力を取り付ける段取りを描いていた。
だがG20が10日まとめた共同声明は「エネルギー市場の安定に向けて必要な措置を即時にとる」など具体性に欠ける文言が並び、ノワク氏が主張した米国などの減産目標は明記できなかった。ブルイエット米エネルギー長官は会議で米国の生産量は2020年末までに日量200万バレル減るとの見通しを説明。「自由で開かれた原油市場」を重視する考えを強調し、生産量を連邦政府が決めるのは適切ではないとの建前論にとどまった。
代わりに提案したのが国家戦略備蓄施設の活用だ。備蓄施設を民間企業に貸し出して行き場を失った原油を貯蔵し市場の流通量を削減するという。ただ米国の備蓄枠は7億1350万バレルでそのうちの約9割がすでに埋まっている。仮に1日の米国の生産量を全て貯蔵するとすれば6日程度で貯蔵枠が埋まる。供給過剰の解消には効果が薄いとの見方が大勢だ。
原油市場は新型コロナの感染拡大による経済活動の停滞で需要が急減したのに加え、サウジの大幅増産で急激な供給過剰に見舞われた。世界生産の約2割にあたる日量2000万バレル以上が余剰になったとの見方がある。サウジとロシアは協調減産での暫定合意の見返りに、米国の具体的な減産協力を求めたが結果は不発に終わった。
米国の姿勢には「いいとこどり」をねらう姿勢もうかがえる。原油安の直撃を食らっているのが損益分岐点が高いシェールオイルを生産する米企業だ。シェール企業の破綻で債券市場で信用リスクが広がるなか、トランプ氏がサウジとロシアに協調減産の枠組みに戻るよう呼びかけたのが今回の産油国の暫定合意の発端だった。民間企業による減産で協力姿勢を演出するのにとどめて、暫定合意の原油安歯止め効果に「ただ乗り」しようとの思惑もにじむ。
ただオバマ政権下の国務省でエネルギー外交を担当したデビッド・ゴールドウィン氏は今後数カ月間で米国が減産に十分な協力をした具体的なデータが示されなければ、暫定合意が履行されない恐れがあると指摘する。サウジとロシアはこれまで減産しても増産で穴埋めしてしまう米国へ不満を募らせてきた。
両国がトランプ政権に見切りをつけて、米国の各州と連携を強めるシナリオも考えられる。米国で原油生産量が最も多い南部テキサス州では当局が州内の生産量を制限する案が浮上する。すでにロシアやOPECと減産の協議を始めており、将来的には連邦政府を迂回して事実上の協調減産に発展する可能性がある。
OPECプラスも一枚岩ではない。9日の会議ではメキシコが自国に割り当てられた減産量に土壇場で反対した。減産を実現させたいトランプ大統領が仲介に乗り出し、メキシコの減産の一部を肩代わりすることで同国と合意した。だがトランプ氏は具体的な減産の手法を明示せず、OPECプラスの他の参加国が受け入れたかも不明だ。OPECプラスは協調減産の実行はメキシコの参加が確認できることが条件だとしている。
ゴールドウィン氏はOPECプラスの暫定合意を踏まえても「供給過多の市場状況は変わらない」との見方を示す。新型コロナの終息も見えず需要が急回復する見通しは立たない。市場は国際協調の乱れを見透かしており、産油国が狙った原油相場の大幅上昇は見込みにくいとの見方が広がる。
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April 11, 2020 at 02:00PM
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原油協調減産、米参加描けず - 日本経済新聞
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