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Monday, December 6, 2021

米主催「民主主義サミット」が盛り上がりそうにない理由。アジアに「踏み絵」迫る最強国家の厳しい現実 - BUSINESS INSIDER JAPAN

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オンラインで「民主主義サミット」を主催するバイデン米大統領。冷戦時代にはこのようなサミットは開催されたことがない。何を意味するのか。

REUTERS/Ken Cedeno

バイデン米大統領は12月9〜10日、およそ110カ国・地域のリーダーを招いて「民主主義サミット」をオンライン開催する。

台湾を招く一方、中国とロシアは招かない。その選択からみえるのは一目瞭然、アメリカの同盟・友好国と団結して中国包囲を強化する構図だ。

アジアの大半の国は「アメリカか中国か」の踏み絵を嫌い、一貫してアメリカとの同盟関係を強調してきた日本政府内にも慎重論がある。

このサミットは盛り上がっていないし、これからも盛り上がらないだろう。その理由を探る。

「民主」の基準があいまいすぎる

サミット開催はバイデン大統領の選挙公約だった。その目的は「自由世界の国々の精神と共有された目的を再興する」とされる。

米国務省のプレスリリース(2021年2月)によれば、サミットのテーマは(1)専制主義からの防衛(2)汚職との闘い(3)人権尊重の促進、の3点。

初回サミットの1年後には、参加国が目標の成果を発表するための対面開催を予定する。

米政府が発表した約110の招待国・地域と非招待国をみると、「民主主義国ってどんな国?」との疑問が湧いてくる。

例えば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のうち、強権的姿勢を強める(エルドアン政権下の)トルコと(オルバン政権下の)ハンガリーが招かれなかったのは理解できる。

しかしアジアでは、イスラム教徒弾圧を強めるインドやパキスタン、フィリピンが招待される一方、ベトナム、シンガポール、タイは除外された。社会主義国のベトナムはともかく、シンガポールとタイが招かれなかった理由はよく分からない。

「民主」の線引きがきわめて曖昧で、アメリカの「お友だちクラブ」の印象を免れない。

一橋大学の市原麻衣子准教授は「民主主義再生へ、日本の力を」と題した記事で、サミットの意義を次のように擁護している。

「英語ではSummit for Democracyと表記される。『民主主義国間のサミット』ではなく、『民主主義のためのサミット』という位置づけであることを踏まえれば、この規範を一定程度受け入れる国の間で議論する『ビッグテント・アプローチ』は、必ずしも批判されるべきものではない」(朝日新聞デジタル、2021年11月25日付)

そうしたアプローチであれば、中国とロシアの参加も認めるべしという議論も成立するはずだが……。

台湾総統を招待する計画もあった

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12月2日、台北で開催された「開かれた国会フォーラム(開放国会論壇)」オープニングセッションに登壇した台湾の蔡英文総統。「民主主義サミット」への参加は見送られた。なお、写真のフォーラムには安倍晋三元首相もビデオメッセージで祝辞を寄せた。

REUTERS/Annabelle Chih

招待国のなかで最も注目されたのは、台湾・蔡英文総統の扱いだった。

ブリンケン米国務長官は過去の公聴会で蔡総統をサミットに招待する可能性に言及しており、もし実行に移せば、アメリカが「一つの中国」政策を空洞化して「一中一台」(=中国と台湾を別国家とみなす)に政策変更したと(中国側から)みなされるリスクを秘めていた。

中国共産党系の有力紙・環球時報は2021年8月の社説で、蔡総統を招けば、中国軍用機は台湾本島の横断飛行も辞さないとの警告を出したほどだ。

結局、アメリカと台湾は蔡総統の招待を断念し、オードリー・タン(唐鳳)IT相を代表として招く「無難な」人選にとどめた。

なお、アメリカはサミットの招待リストを発表するにあたり、台湾とコソボを「国家」扱いせず、参加「者」リストという呼称を使った。中国への配慮だろう。

環球時報はこの動きをみて、「米台の腰が引けた強がり」と題した社説(11月24日付)を掲載。アメリカと台湾が「低姿勢」をとる理由として、中米首脳会談を経てアメリカは対中関係の緩和を期待していること、さらには、中国軍用機による台湾本島横断飛行の脅しが奏功したことをあげた。

民主主義サミットに対する中国の立場については、中国外務省の汪文斌報道官が記者会見(11月29日)で説明している。

汪報道官は、アメリカが自らの(恣意的な)モノサシを使って、どの国が民主主義でどの国が非民主主義かを裁定し、各国の民主主義の善し悪しを測っていると批判。「民主主義を隠れ蓑(みの)にした覇権主義」と断じた。

米中対立の最前線になった台湾の扱いこそ、サミットの本来の核心的テーマだった。

日本のサミット参加に「賛否両論」

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11月24日、ベトナムのファム・ミン・チン首相(左)と総理官邸で会談した岸田文雄首相。ベトナムは社会主義国家ゆえにか、「民主主義サミット」には招待されていない。

Toru Hanai/Pool via REUTERS

日本の岸田新政権の対応からは「迷い」が感じられた。

招待リスト発表直後の記者会見(11月25日)で、日本が参加するかどうか問われた松野官房長官は「検討中」と答えるにとどめた。

翌々日(27日)にはNHKが「岸田首相が参加する方向で調整に入った」ことを伝えたものの、首相本人の態度表明には至らなかった。中国と台湾、双方の反応を探りながら正式な態度表明をあと送りする慎重ぶりだ。

政府内だけでなく、有識者の間にも賛否両論ある。

前出の一橋大・市原准教授は、先の記事中で「民主主義規範は、国境を超えた波及効果を持つ」として、越境性の認識を強調する。

しかし、波及効果が「普及すべき価値」を意味するなら、それは論理の飛躍ではないか。民主的な規範の重要性には同意するとしても、それに普遍性があり、国境を超える=越境すべきとまでは筆者は考えない。

一方、京都大学の中西寛教授は、外務省が発行する専門誌『外交』(Vol.69)に掲載された論考で、民主主義サミットの「目的と効果についてどこまで考えた上なのか、私はいささか懐疑的である」と、率直に疑問を投げかけている。

中西教授はアフガニスタンのように「宗教や民族が複雑に入り組み、その亀裂が表面化しているところでは、民主主義による国民統合は難しい」とみる。民主を越境すべき普遍的な理念とはみていない。

さらに、同教授は論考で「そもそも民主主義か権威主義(非民主主義)かを明確に区分する境界線はない」と指摘している。民主というくくりのなかにもグラデーション(濃淡)があり、民主か専制かの二項対立をもとに、非民主を排除するのは誤りというわけだ。

民主主義はそう簡単に「越境」しない

アメリカは、アフガニスタン紛争(2001年〜)、イラク戦争(2003年〜)、さらにはアラブの春(2010年〜)での民主キャンペーンを通じ、中東諸国に民主主義を根づかせようとしてきたが、ことごとく失敗に終わった。

理念先行の欧米的思考法は、どちらかと言えば実利重視のアジアや中東では通用しない。そう簡単には「越境」しないのだ。

普遍的理念や越境に伴う民主主義のもうひとつの論点が「人権外交の是非」だ。

前出の市原准教授は、日本政府が人権外交に消極的な理由として、「主権規範を重視する立場」をとってきたためとみる。

人権侵害を行った個人や組織への経済制裁を可能にする、いわゆる「日本版マグニツキー法」の制定に岸田首相が消極的なのも、主権規範を重視する考えに加え、対中関係の悪化や米中新冷戦構造への懸念からと論じる。

しかし、中国をはじめ東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国、インドなど南アジアの途上国が揃って「内政干渉」として人権外交に反対するのは、それらの国の多くが帝国列強の植民地支配を受け、独立を果たしたあとも旧宗主国から内政干渉を受けてきた歴史があるからだ。

主権規範か、それとも民主・人権の普遍的理念か、という二分思考ではなく、歴史的経緯を理解した上で考えることが重要ではないか。

中国への配慮が不可欠の国々、日本もその一国

アメリカが世界戦略の軸足を中東からインド太平洋へと移したいま、最重要パートナーとなったASEAN加盟国のなかにアメリカ式の民主主義を体現する国家はどのぐらいあるだろう。

タイやミャンマーのクーデターが人権侵害や民主主義の抑圧を伴っているからといって、経済制裁を科すかどうかは極めて政策的な問題だ。

対中協力は、中国との経済協力関係を抜きにして存続できないアジアの多くの国々、さらには隣国である日本にまである種運命づけられた政策。中国への配慮は決して非難されるべき外交ではない

ASEAN加盟国の大半は、アメリカか中国かという踏み絵を嫌う。民主主義サミットが盛り上がらない理由は単純で、サミットがまさにそんな「踏み絵」の舞台になる懸念があるからだ。

オバマ政権以来、米政府が経済制裁を乱発してきたのは、アメリカが世界の強いリーダーだからではない。

逆に「アメリカ衰退が(経済制裁乱発の)最大の要因」とみるのは、米タフツ大学のダニエル・W・ドレズナー教授だ。

同教授は最近の論考「経済依存症は何を物語る〜アメリカの衰退、外交的影響力の低下」(フォーリン・アフェアーズ、2021年9・10月号)で、20年にわたる戦争と景気後退、新型コロナ感染拡大を通じてアメリカは衰退の途上にあり、他に頼る外交手段が少なくなったからこそ経済制裁に頼ってきたと指摘する。

アメリカは冷戦時代には「民主主義サミット」など開かなかった。自己のガバナンスに自信があったからだ

衰退に歯止めがかからず、いまや神通力を失った民主の旗を掲げざるを得ないところに、このアメリカ主導のサミットの「負の時代性」がある。


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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