新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受け、2021年は初のオールデジタル開催となる「CES(シー・イー・エス)」(会期は1月11日から14日)。例年1月にラスベガスで開催される「CES」は、昨年の出展企業数が約4,400社、参加者数が17万人以上という世界最大のテクノロジーイベントだ。
最先端のテクノロジーやそれを使ったモノやサービスが世界各国から集結するため、長足の進歩を遂げるテック業界の最先端トレンドをリアルタイムでつかむうえではまたとない機会だ。しかし、ただ出展コンテンツを眺めるだけでは、いち消費者として楽しむだけになってしまう。
テクノロジーの未来を読むために、展示内容から見るべきポイントを専門家に聞いた。
CESの歴史はテクノロジーの歴史に対応している
ここ数年は日本のメディアなどで取り上げられる機会も増え、一般的な知名度も高まっている「CES」だが、その歴史は1967年から始まっている。その長い歴史はテクノロジーの歴史も大きく反映しているため、開催の経緯や背景を知ることがまず有効な手立てとなる。
「CESはアメリカの業界団体であるCEA(Consumer Electronics Association)が、いわば最新家電の商談会として始めたもので、過去には家電見本市とも呼ばれていました。CEAは2015年にCTA(Consumer Technology Association)へと団体名を改称し、2018年からはイベント名についても「Consumer Electronics Show」から「CES」に変更しています。
つまり、主催者の団体名やイベント名から“家電”をあえて外し、最先端のデジタルテクノロジーを主役としたイベントであることを明確にしたのが現在のCESなのです」
そう話すのは、1980年代の終わりからCESに参加し続けてきた小池良次(こいけ りょうじ)氏。情報通信システムや商業無人飛行機システムを専門とするコンサルタントとして知られ、通信業界を専門とする在米ジャーナリストとしても活躍している。
小池氏によると、テクノロジー業界におけるトレンドの変化や技術変革とともに歩んできたCESの歴史は、4つの時代に分けることができるという。
「私が参加するようになってからのCESでいうと、パーソナルコンピューターが家庭やオフィスでも使われるようになった1980年代後半からが第1世代。1990年代のインターネットの登場からその後の2000年頃まで続くWebブームが第2世代。ネットバブルが崩壊した後、2007年のiPhoneの登場などによってスマートフォンのブームが到来し、モバイル・クラウドの時代になっていく2010年代が第3世代となります」
2015年あたりから注目を集めているAIやIoTなどは、2020年代に第4世代として花開くという。
「AIが既存の技術にとどめを刺しつつあるというのがここ数年の傾向ですね。スマートフォンの出荷台数が2015年頃にピークアウトした数年後からは、モバイル・クラウドの次のトレンドとして、AIとエッジコンピューティングが注目を集めています」
小池氏によればCESを見ていると、そうした新たなテックトレンドへのシフトが急速に進んでいることがわかるという。前述したとおり、第4世代前夜、CESは2015年から明確に最先端のデジタルテクノロジーが主役のイベントだという立場をとった。ITの普及とともに広く一般の人々に開放され、イベント規模も拡大していった。
CESを構成する「4つの柱」
現在のテクノロジーの現在地が理解できても、さまざまな技術や出展企業が集まっているなか、何に注目すべきかに迷うだろう。小池氏は、はじめてCESをチェックする人も「CESを構成するいくつかの柱を知れば、自分が注目すべきポイントを絞ることができる」と話す。
「一般の来場者が中心になったとはいえ、今も商談は行われていますし、特に中小の出展者などにとっては、多くのメディアが集うCESで自社の新製品を発表することは大きな意義を持ちます。
また、スマートフォンの販売がピークアウトして以降、CESでの基調講演などを通じた技術トレンドの創出や発信はより重要になっていて、リーマンショック後にマイクロソフトなどの大企業がCESから撤退する動きを見せて以降は、ベンチャー発掘という柱も入ってきました」
つまり現在のCESには、「商談」「新製品の発表」「トレンドの創出」「ベンチャー発掘」といった大きな4つの柱があり、どこにプライオリティをつけるかでイベントの見方は大きく変わってくるというのだ。
なかでもテクノロジーの未来を予想するために注目すべきなのが「トレンドの創出」という側面。小池氏が今年のCESで特に注目するトレンドが、まさに第4世代を代表するAIとエッジコンピューティングの実装だ。
「この流れは、5Gの本格整備が契機でした。今年のCESではいち早く5Gに対応していた米国通信大手ベライゾン社のCEOが基調講演を行いますが、それがまさに『トレンドの創出』を担う場面ですね。
5Gはエッジコンピューター時代を切り開いていきます。これらが実装されていけば、この技術に支えられるAIも進化し、社会は大きく変化していく。AIは、いまや人間のバディ(相棒)になろうとしています」
補足をするとエッジコンピューティングとは、デバイスやネットワーク端末にもクラウド機能を分散させて、より効率的なクラウド・サービスを提供する技術。音声応答などのAIアプリは利用場所の近くで情報処理する一方、そのアルゴリズム構築や再学習はリージョナルやセントラル・データセンターなどが分担する多階層型の分散システムだ。
たとえば、自宅にあるAIを搭載したデバイスに、自分の行動などの情報を自動的に記憶させておけば、財布や鍵の置き場所から今日の予定まで、聞けばすべてをAIのバディが答えてくれる。まるでSFのような世界が、AIと、それを支える5Gに代表されるエッジコンピューティングによって実現するのだ。
また、巨大なデータセンターで情報を集約する従来のクラウドを自動運転などに活用するにはリアルタイム性などの課題があったが、エッジコンピューティングの進化はそうした課題の解消にもつながる。結果として自動運転車や商業ドローン、ホームロボットなど、あらゆる自律型システムを協調的に動かすことができる。これは劇的な進化だ。
トレンドを中長期的な視点で掴む
ここまでテクノロジートレンドの全体像を掴むことができたら、具体的な注目企業や技術についても情報をキャッチしたいところ。しかし、ITの黎明期にはシリコンバレーの企業群だけを見ればよかったものの、現在は世界中の企業が争名争利していてまずその数に圧倒されてしまうだろう。
近年、業界を一見すると、アメリカのGAFAやそれに追随する中国のBATHなどが話題になることが多く、テクノロジー市場はよりグローバルに競争を加速させているようにも見える。各国の特徴を理解し、それぞれの企業の目指す未来を把握するためには、「その企業がグローバルプレイヤーかローカルプレイヤーかを見なくてはならない」と小池氏は言う。
「たとえば近年の中国は非常に面白い技術が出てきていますし、ビジネス的にも伸びています。中国のテック企業は国内の人々や政府のシェアを奪うことを画策しているいわば“ローカルプレイヤー”の傾向がつよい。それは中南米などの国にも言えると思います。一方でGAFAをはじめとするアメリカなどに多いハイテク企業は、世界中の数億人が使うという発想でアプリケーションなどを開発する“グローバルプレイヤー”を志向している。
それぞれが目指すべき傾向が異なるため、テック業界の未来を考えるうえでは、そうした2つのタイプがあることを理解しておくとよいでしょう」
テクノロジーの変遷や現在の基盤をよく理解したうえで、自分の関心やビジネスにあったプライオリティにあわせて、4つの柱を起点に情報をチェックしておく。そうしてある程度見るべき分野が絞られたら、そこに関連する個別の企業が、どういったタイプで発展しようとしている企業なのかを確認する。
いくつかの視点から関心をブレイクダウンすれば、「衆目を集めている企業が、今どういったサービスを提供しているのか」を知るだけではなく、その企業が今後どういった分野での発展を目指しているかなど、中長期的な関心をあわせ持ってテクノロジーの未来を予想していくことができるだろう。
テクノロジーがあらゆるビジネスの要になっている現在。日頃からアンテナを張り、注目のテック企業やテクノロジーの動向を掴みたい。
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