本稿は独立系ベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインが運営するサイト「GB Universe」に掲載された記事からの転載
コロナ禍によって2020年は大きく市場が動いた年になりました。デジタル化の波は全ての産業に到来し、新たなパラダイムの変わり目を感じている経営者の方々も多いと思います。一方、各業界・市場の構造や課題は外からは見えづらく、新たなビジネスチャンスに気が付かないケースも多々あります。
そこでGB Universe編集部ではグローバル・ブレインで実施している投資先のPR支援プログラムと連携し、各業界に特化した成長スタートアップのCEOにその市場の読み解きと、成長している「理由」を語っていただくインタビューシリーズを開始することにいたしました。
初回に登場するのはお花のデリバリーで急成長中のBeer and Tech代表取締役、森田憲久さん。運営する「HitoHana(ひとはな)」は農林水産省が主導する生産者支援プログラムに参加し、コロナ禍によって廃棄される可能性のあったお花を約3カ月で2万3,000件以上出荷することに成功します。これはプログラム全体の約7割に相当(※)したそうです。(※2020年5月–9月のプログラム期間中、全体で33012件の出荷と発表されている中、HitoHanaは本格参加から3ヶ月間(9月–11月)で23,408件を出荷。)
グローバル・ブレインが支援するスタートアップの創業者「CEOの視点」を通じ、新たなビジネスチャンスや成長企業へ参加するきっかけとなれば幸いです(文中の太字は全てGB Universe編集部、回答はBeer and Tech代表取締役の森田憲久氏)。
花き業界の課題と現状
森田さんはご実家もお花の事業をされているんですよね
森田:はい、緊急事態宣言が出された頃、胡蝶蘭の生産者である実家から連絡がありました。そこで父から「お花屋さんがみんな閉まってしまい、今年は花が咲いてきた胡蝶蘭を大量に余らせてしまうかもしれない。ネット花屋さんだけが頼りだから、大変な状況だけど頑張ってほしい」と言葉をかけられたんです。
それで農林水産省のフラワーロス支援キャンペーン(※)に参加して送料を無料にした
森田:珍しく私に弱気な姿をみせた父親を見て、同様の悩みを抱えている生産者さんがいることに思いが至ったんです。インターネット経由でお花を売ることが少しでも生産者さんの助けになるのであれば、と思って参加しました。(※農林水産省が主催している国産農林水産物等販売促進緊急対策プロジェクト。)
パンデミックで顕在化した部分含め、花き業界の課題について教えてください
森田:花屋さんは現在1万5,000店あると言われています。平均の年商は2,300万円ぐらいで、非常に小さな会社がばかりです。だいたい1兆円ぐらいのマーケットだと言われているのですが、最大手の会社でもマーケットシェアは3%程度です。
マーケットが拡大する時は小さなお店でも良かったのですが、マーケットが徐々に縮小していく中では、店舗の採算は合いづらくなっていきます。お店を守るために、一人で多くの業務を抱え込み、朝早く店を閉めるのに疲れましたというフローリストも少なくありません。
そういう状況だとテクノロジー投資も難しそうですね
森田:はい、コロナウィルスは予想されていた店舗が減少しユーザーがECにシフトしていくという未来を前倒しで現実化しました。特に、お客様の移動に制限がかかったことやリモートワークが進んだことで家で過ごす時間が増え、お花や植物の需要は伸びました。しかし、お店で購入していたユーザーの生活動線上にあったお花屋さんがなくなってしまい、そういった方々がお花を求めてオンライン流れてきたと考えています。
花き業界におけるデジタル化のプレーヤーの状況を教えてください
森田:花き業界のデジタル化は1995年に米国の1−800FLOWERS.comのインターネット販売をきっかけに進みはじめました。1−800FLOWERS.comは提携する花屋さんをネットワークし、インターネットで注文を受けたらお届け先の近くにあるから提携店からお花をお届けする、というモデルでした。
国土の広いアメリカのどこにでもお花が贈れる、フラワーデリバリーサービスという業態を確立し、NASDAQに上場を果たし、いまも順調に株価を伸ばしています。国内でも花キューピットさんを筆頭に同様のモデルの花のECに取り組む企業が登場しています。
確かにお花の「ギフト」と言えば花キューピットが強いですね
森田:確かにこのビジネスモデルは、大きな国土がある米国の配送問題を解決するには素晴らしい解決策ではあるものの、AmazonのようなECと違い、お花はスケールすることで仕入先に対して価格交渉力を持つことができません。販売面をとったことが必ずしも強い優位性をつくるわけではないんです。
そのため、2012年ぐらいから米国でフラワーデリバリーサービスを手掛けるスタートアップが立ち上がり、ヨーロッパや中国でもそのトレンドは続きました。新しく生まれたスタートアップは中間業者を排除することで価格競争力をつけ、デザイン性を高めるビジネスモデルを採用しました。
HitoHanaの開始は2015年11月ですね
森田:はい、当時から海外サイトをみていたわけではありませんが、世界のスタートアップ同様、僕らも店舗からECへオンラインシフトするマーケットの中で、市場流通比率の高さや既存のECプレイヤーのデザイン性には課題が残っているように感じていました。
しかし、実際に事業を始めてみると、日本の花のECにおける流通業者のマージンは8%程度でそこまで大きくなく、米国のように中間業者を省いても劇的な大きなインパクトがないことがわかりました。一方で、公共交通機関や物流網が整っている日本では提携花屋さんにオペレーションを任せてECサイトのウェブマーケに注力し販売額を伸ばしても、デザインコントロールできない上に仕入れコストも大きく下がらず、まだ課題が残っているように感じました。
日本特有の業界課題を発見したと
森田:一人のユーザーとして感じていた古臭いデザインの問題と競争優位なきビジネスモデルが生み出した厳しい労働環境、この両方を解決するようなビジネスモデルを模索する中で、HitoHanaは今の姿に近づいてきました。
HitoHanaが採用したSPA型モデルのメリット
ここからHitoHanaのモデルについてお聞きしたいのですが、全体像を教えていただけますか
森田:これらの問題を解決するために、HitoHanaのビジネスモデルは、提携花屋さんをネットワークするECではなく、商品企画から仕入れ・制作・発送までバリューチェーン全体をコントロールするSPA型のECを展開しています。
大手小売と同じ一気通貫のモデルですね
森田:僕らは花屋さんにオペレーションを外注し、スケールさせやすい構造を捨てる代わりに、ECに特化したオペレーションを自ら設計し、オペレーションをスタッフ集め、業務プロセスの中でデジタルデータを生み出し、データが貯まれば貯まるほどお客様の提供価値が増していく構造を選択しました。
例えば、HitoHanaでは、注文を受けて実際に制作した花束はすべて撮影し、画像データとして保存しています。その画像データ一つでも次のような活用をしています。
- 制作した花束の画像は花束をオーダーしてくれた方にお送りします。ギフトの花束はお届け先に届き注文者が確認することができないため画像をお送りすると非常に喜ばれます
- 制作した花束の画像は商品詳細ページにあるギャラリーに掲載され、購入検討しているユーザーさんが実際どのレベルのデザインが納品されるのかわかり安心感が増します
- ギャラリーから制作した花束の画像を選択肢、類似デザインを指定してオーダーすることができます。お花のデザイン要望をテキストで伝えるのは非常に難しく、画像を利用することでお客様が要望を伝えやすくなっています
- 制作した花束の画像は、レビューにも表示され、どんなデザインに対してついたレビュー点数なのかわかるようになっており、より意味あるレビューになっています
- 制作した花束の画像は制作者と紐付けられ、誰が何をどんなデザインで制作したかわかり、デザインフィードバックがされるようになっています
販売すればするほどデータが蓄積されて体験が改良される
森田:そうです。この例のようにデータを取得から活用までの一連の流れを作ることで、現場で働くメンバーの仕事の価値を流してしまうのではなく、ストックし積み上がるように設計しています。デジタル化をオペレーション効率化に使うのだけではなく、提供価値を増幅する仕組みを根幹に据えることで、データそのものとデータを生み出す組織が、他者が真似できない優位性を築いていくんです。
デジタル・トランスフォーメーション(DX)がツールのデジタル化ではなく、構造のデジタル化であると言われますが、そのケーススタディですね
森田:このようにデータによって提供価値をつくることでお客様の支持を集めた結果が農水省におけるプログラムの成果に繋がったのではないでしょうか。花き販売では43サイト(楽天、Yahoo、食べチョク等)が販売参加している中、花と植物領域に特化したサービスとして大きな存在感を残せたと思っています。
デジタル化で花き業界はどう変わる
最後に花き業界がデジタル化することでどう変わるのか、聞かせてください。森田さんのお話ではご実家の事業も含めた現在の小売事業者はある意味で競合してしまう存在になります。どのような発展のシナリオがあるのでしょうか
森田:コロナ以前から国内でも毎年10%程度フラワーデリバリーサービスが成長すると言われていました。なのでお花の購入チャネルが店舗からオンラインへと流れるのは確実です。実際、国内の花や植物マーケットに参入意思がある会社は米国のフラワースタートアップのBOUQSやAmazonなどが登場しており、これから数年で競争環境はより厳しくなると思います。その上で、フラワーデリバリーサービスが成長することで花き業界にも大きく3つの変化が起きると考えています。
なるほど
森田:1つ目は、フラワーデリバリーサービスと生産者との密接な連携です。ECの規模が大きくなればなるほど、商品写真に近しいものを作るために同じ花材が必要になり、特定の生産者への発注額が急激に伸びていきます。
既に生産計画などに踏み込みこんでの花材確保の話が進めていますが、フラワーデリバリーサービス事業者と提携生産者が連携し、商品企画時点から連携するようになるはずです。こうした連携の中で、市場でセリ落とされて勝手にサーブされる状態から、他業界のD2Cのようにサプライチェーンの透明性は増し、生産者の顔の見えるような世界に変わっていくと思います。
SPAのようなサプライチェーンを受け入れる、という変化ですね
森田:2つ目は、労働環境のホワイト化です。店舗からフラワーデリバリーサービスで勤務するフローリストさんが増えることで、労働環境は是正されていくはずです。というのも、フラワーデリバリーサービスは注文は24時間受け付けられるため、店舗のように制作時間以上にフローリストを拘束する必要がありません。また、規模化することで分業とシステム化が進み、一人あたりの生産性は大幅に改善するからです。
実際、弊社のフローリストの1日の制作数は、店舗の勤務時の3倍以上であるにも関わらず、配送会社様へ荷物を引き渡したら、定時でお仕事終了になります。自身の才能が活きるプロセスにフォーカスでき、価値が積み上がる構造が作れれば、労働時間だけでなく、店舗勤務よりも良い給与を提供できるはずです。
この辺りは規模の経済が効きやすい部分ですね
森田:最後は人気フローリストの登場です。お花は前述の通り、スケールしてもコストが劇的に下がることはありませんので、利益を伸ばすためには提供価値を上げる方向性にシフトしていくことが予想されます。提供価値を上げていく方向の中で、注文されるのが個々のフローリストのデザインスキルです。
なるほど、インスタでもお花の写真は人気ですが、マイクロインフルエンサーが登場してもおかしくないですね
森田:いままで店舗のある商圏の中でしかサービスを届けられなかった才能があるフローリストは、フラワーデリバリーサービス上で全国のお客様にサービスが提供できるようになることで、ユーザーに才能があるフローリストは発見され、オンライン発で人気フローリストが生まれてくると考えています。フローリスト個人の指名料やギフティングの仕組みなどが進み、もう一度憧れの職業に返り咲けるのではないかと思います。
デジタル化によってこのようなシナリオが生まれ、これまでの花き業界における店舗が抱えてた問題を解決し、フローリストや生産者との関係が変わるのではないかと考えています。
長時間のインタビューありがとうございました
からの記事と詳細 ( 花き業界をデジタル化する「HitoHana(ひとはな)」モデルーーCEOの視点:Beer and Tech 森田氏 - THE BRIDGE,Inc. / 株式会社THE BRIDGE )
https://ift.tt/3aPXybm
No comments:
Post a Comment