[東京 1日 ロイター] - 東京五輪の重量挙げ女子87キロ超級に出場するニュージーランド代表ローレル・ハバードは43歳と、対戦相手たちの平均年齢の2倍近い。285キロを持ち上げた記録を持ち、世界最強選手の1人でもある。
ハバードは2日、トランスジェンダーであることを公表した五輪史上初の選手として戦う。彼女の出場は、新型コロナウイルスが世界的に大流行する中で、そもそも五輪を開催すべきか否かという問題と同じくらい、意見を2分する争点となっている。
ハバードは男性として生まれたが、今から8年前に名前を変え、性転換のためのホルモン療法を実施。その後、10年以上前にやめていた重量挙げを再開した。
国際オリンピック委員会(IOC)は、一定の基準を満たせばハバードのような選手が女子競技で戦うことを認めており、トランスジェンダーの権利支持団体から賞賛を得てきた。
しかし、元選手や女性の権利を提唱する人々の中には、ハバードは身体的に有利で不公平だ、との声もある。彼女が女子87キロ超級に参加することは、スポーツにおける女性の平等な扱いを求めてきた長年の苦闘を踏みにじるものだとの指摘だ。
「女性のスポーツを救う会(オーストラリア)」の共同創設者、キャスリン・デーブズさんは「女性は16年前からこの種目で戦うことができているが、そこに男性が入ってきて表彰台に立ち、女性の対戦相手が獲得して当然だった場所を奪う可能性がある」と訴える。
ハバードはニュージーランド代表に選ばれて以来、メディアに話をしていないが、30日には「スポーツをインクルーシブ(全ての人を分け隔てず一体的)に参加可能なものとする(IOCの)取り組みに感謝する」とのコメントを出した。
<データ不足>
IOCは2015年、トランスジェンダーの選手について、男性ホルモンのテストステロン値が少なくとも12カ月間にわたり一定以下なら、性別適合手術を受けずに五輪の女子種目に出場することを認めるとの判断を下した。
IOCはこの時、トランスジェンダー女性のアマチュアランナーであるジョアンナ・ハーパー氏の研究論文を考慮に入れた。ホルモン療法を受けたトランスジェンダーの女性アスリート8人を対象にしたこの暫定的な研究では、療法後にパフォーマンスが落ちていることが示された。
しかし、批判派はこの論文を、研究範囲が狭過ぎると一蹴する。ハーパー氏はこれに同意しつつも、IOCは同論文を元に決定を下したわけではないと主張している。
ハーパー氏は現在、英ラフバラー大学でさらに研究を進めている。同氏は「データが不足しているのは確かだ。国際的なスポーツ連盟は今あるデータで最善を尽くす必要がある。より良いデータを入手すれば、より良い方針が得られるだろう」と述べた。
<競技ごとに判断>
IOCは率先して科学的データ全般の検証を行い、新たな枠組みを定めている。各競技の国際連盟はそれを元に競技ごとに判断を下す。
IOCのメダル・医療部門責任者、リチャード・バジェット氏は29日に「スポーツの世界全般にわたって多くの対立点がある。これはスポーツや個々のイベントの参加資格の問題であり、個別のスポーツごとに判断を下すことが重要だ」と述べた。
トランスジェンダー女性の五輪出場を認めることに反対する人々は、センシティブな問題であることが障害となり、議論が深まらないと指摘する。アスリートも統括組織も余波を恐れるからだ。
ニュージーランドの元重量挙げ選手、トレーシー・ランブレクスさんは「私が現役だった時には本音を言えなかった。発言が招く結果を考えて慎重にならざるを得なかった。しかし、今は声を上げられない人々のために発言するべきだと思っている」と言う。
ランブレクスさんは最近、オーストラリアのテレビで「トランスジェンダーの人々に対する嫌悪感はない。ただ、私は同時に(女性として生まれた)女性が、スポーツで平等な権利を得ることを支持している」と述べた。
トランスジェンダーの権利確保を求める活動を行うオーストラリアのキルスティ・ミラーさんは、ハバード選手の出場に対する反発は、トランスジェンダーへの嫌悪感というより、誤った情報に基づく面の方が圧倒的に大きいと言う。
ミラーさんは、IOCが2015年の判断について、人々への啓蒙活動を十分に行わなかったことに原因があると指摘。ハバード選手出場への反応を恐れている。
「ローレル(ハバード)に大きな憎悪が寄せられるだろう。こんなにつらい気持ちを味わうのは初めてだ。ひどい1日になるだろう。勝っても負けても引き分けでも、われわれに大きな憎悪が集まるだろう」と語った。
(Martin Petty記者)
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