世界規模のモータースポーツ版eスポーツ
新型コロナ禍においてオンラインを通じて自宅で参加できる“eスポーツ(electric sports)”が話題となっている。eスポーツとは、コンピューターゲームやビデオゲームを通じて行われる競技で、ジャンルは、シューティングゲームや格闘ゲーム、カードゲーム、スポーツゲームなどさまざま。人気のジャンルでは世界規模の大会も開催され、年収は数億円というプロゲーマーも存在する。
eスポーツにはもちろんモータースポーツ版も存在する。そのプラットフォームを担うのが、プレイステーション4用のゲームソフト「グランツーリスモSPORT」(以下GTS)だ。「グランツーリスモ」は1997年に第 1作が発売されたドライビングシュミレーターで、プレイステーションの進化とともに「グランツーリスモ6」までタイトルを重ねてきた。
そして、2017年にリリースされたのがGTSだ。ここでまず新作はなぜ「7」ではなく、「SPORT」だったのかという疑問がわく。それはeスポーツを見越してのものだったという。GTSをプラットフォームとして2018年からは、「FIAグランツーリスモチャンピオンシップ」が開催されている。国・地域別の「ネイションズカップ」と、自動車メーカー別の「マニュファクチャラーシリーズ」という2つのチャンピオンシップが存在し、世界中からGTSユーザーであれば誰でも参加が可能。ランキング上位のプレイヤーは、ワールドツアー、ワールドファイナルという世界規模のイベントへ参加することができるというものだ。
F1をはじめWRC(世界ラリー選手権)やWEC(世界耐久選手権)など数々の世界のトップカテゴリーのモータースポーツを統括するFIA(国際自動車連盟)が、eスポーツを手掛ける初めての試みだった。ポリフォニー・デジタル社「グランツーリスモ」シリーズプロデューサーである山内一典氏に、GTSがFIA選手権になった経緯について尋ねてみた。
© Gran Turismo Sport: TM & © Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.
“From virtual to real”
「2013年にFIAの方から話がありました。当初は一緒に協力してビデオゲームの中でFIAの名前をプロモーションしてくれないかという話だったんですけど、僕には別のアイデアがあって、やはり選手権をやったほうがいいだろうと。パリの本部に行ってプレゼンテーションしました。FIAの皆さんもこのままの状態で100年後もモータースポーツが存続しているとは考えていなくて、リアルなモータースポーツが今後も存在するために裾野を広げていく、という思いで一致しました」
山内氏は自らもステアリングを握り、ニュルブルクリンク24時間レースに参戦するなど本格的なレーシングドライバーとしても知られた存在だ。レースの楽しさを熟知する一方で、モータースポーツ存続への危機感も強く感じていると話す。
「モータースポーツってとてもお金がかかります。小さな頃からレーシングカートでレースをやっている子供なんてごくわずかで、競技人口としてはサッカーや野球とはまったく桁が違うわけです。日本のJAFやドイツのADACのモータースポーツライセンスの会員数は年々減少している。自動車先進国ですらこういった状況ですから、このままだと本当にモータースポーツはなくなってしまうかもしれない。それがグランツーリスモなら毎日、何時間でも走ることができるわけです」
現在、このFIA選手権における世界のトップドライバーは、子供の頃から毎日何時間もグランツーリスモをやりこんできた若者たちだ。彼らのテクニックはすさまじい境地に達しており、それはGTSのアンバサダーを務めるF1ドライバーのルイス・ハミルトンをも凌ぐレベルにあるというから驚く。
ここでまた疑問がわいてくる。GTSのトップドライバーは、リアルワールドでも速いのかということだ。実は2008年より日産自動車とポリフォニー・デジタルとのコラボレーションによって、「グランツーリスモ」のトッププレイヤーを、現実世界のプロフェッショナルレースドライバーへと育成するプログラム「GTアカデミー」が行われてきた。欧州や北米を中心としたもので、残念ながら日本人ドライバーはいないが、ここから多くのドライバーが輩出されてきた。現在の日本のトップカテゴリーの1つであるSUPER GT GT500クラスで活躍するヤン・マーデンボロー選手などもその1人だ。
「2008年にこのプログラムがスタートしたときのかけ声は、“From virtual to real”でした。バーチャルで学んだドライビングテクニックが、リアルにも通用するのかという問いだったわけです。それが約10年をかけたGTアカデミーの成功というカタチである意味、証明できたわけです。次にまた同じことをやっても面白くなくて、僕らの新しい挑戦は、バーチャルなモータースポーツもリアルなモータースポーツもある意味ではかわらないんだと。行き来も自由だし、全体としてモータースポーツ人口の拡大につながる取り組みを行っていきたいと思っています」と山内氏は話す。
2018年に始まったFIA グランツーリスモチャンピオンシップのネイションズカップで初代チャンピオンに輝いたブラジル代表のイゴール・フラガ選手は、現実のモータースポーツでも活躍しており、2020年初頭にニュージーランドで開催されたトヨタ・レーシングシリーズにおいてシリーズチャンピオンを獲得した。新型コロナ禍により残念ながらそれ以降のリアルなレースは開催されていないが、2020年シーズンはレッドブル・ジュニアチームのもとFIA F3選手権への参戦が決まっている。
© Gran Turismo Sport: TM & © Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.
シンプルに、リアルなモータースポーツが大事
また自動車メーカーではトヨタが「eモータースポーツ」という名称で、eスポーツをGAZOOレーシングのモータースポーツ活動の柱のひとつとする、と正式にアナウンスしており、スープラによるグローバルなワンメイクレース「GR Supra GT Cup」を開催するなどしている。スープラは昨年3月にGTSへ収録されて以降、約80万台購入され、約3万人がレースに参加した。開発責任者の多田哲哉氏の意向によるユニークな試みとして、GTS上ではリアルなスープラの挙動が再現されていることから、参加者へのアンケートを実施し、そのフィードバックをもとに現実のスープラの年次改良を行っているという。自動車開発の世界でも“From virtual to real”が起きているのだ。
またアウディは緊急事態宣言をうけ、GTSを活用し、電気自動車のコンセプトレースカーを使ったタイムトライアル大会 Audi e-tron Vision Gran Turismo Challengeを実施している。優勝者には、リアルなAudi R8によるサーキット走行体験などを用意する。また5月17日には、今シーズンまだ開幕できていないスーパーフォーミュラの各チームの本物のドライバーたちがGTS上でバトルする公式バーチャルレースを開催、その模様をJ SPORTSで放映する新たな試みも実施された。
いま、これ以外にも自動車メーカー、レース主催者団体など多くのオファーが山内氏のもとに寄せられている。またFIA グランツーリスモチャンピオンシップの参加者は倍増しているという。最後にリアルはなくなってもレースは楽しめるということについて、どのように感じているのか問うてみた。
「それはシンプルに、リアルなモータースポーツが大事ですよ。その不在を強く感じます。いざなくなってみると、オンラインがあれば済むという話ではぜんぜんないと思います。この選手権もワールドツアー、ワールドファイナルというリアルなイベントがあって初めて成立するものですから。僕が最初の『グランツーリスモ』をつくったときにユーザーのみなさんにお伝えしたのは、これはただのツールであって、みんなでこれを使って遊ぶことで完成すると、ということでした。また『グランツーリスモ』という言葉はもともとは旅行をする馬車に由来するものですから、目指す世界観は旅であると言ってきました。そしていまGTスポーツが実現しているのは、トップドライバーたちが世界を旅しながら芸術的なレースをみせていることです。まさに当初から描いていた世界そのものです。そしてワールドファイナルの瞬間に完成したものとして浮かび上がると感じるのです」
バーチャルとリアルはとかく対立軸で捉えられがちだが、プレステとGTSがあればFIA選手権に参戦できるというのだから、時代はまさに融合なのだ。
文・藤野太一 編集・iconic
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May 30, 2020 at 07:16PM
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プレステとGTSさえあれば“誰でも”FIA選手権に参加できる - GQ JAPAN
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